みなさんこんにちは!Dr.TAKAです。
突然ですが、みなさんの中で、腰痛持ちの方はいらっしゃいますか?
最近、整体師などによるYouTubeで「腰痛を即効で治す方法」などをよく目にしますが
あれは医学的に正しいのか?といった質問をよくされるんですね。中には危険な手技をやっているものもあるので、視聴者のみなさんには気を付けて頂きたいと思っています。
ちょうど、ある方と腰痛の治し方について議論していたのですが、なんとその直後の日曜の朝起きた時に、ぎっくり腰になっていました💦
なので、今回は、これまで日本スポーツ協会公認スポーツドクターとして、多くの一般の方たちだけでなくアスリートたちを指導してきた経験から、ぎっくり腰のお話も含めて、腰痛の改善や予防方法などについて、お話しさせていただきます。
非特異的腰痛とは?
少し古い調査になりますが、2009年に全国 2万人を対象にした慢性疼痛で最も困っている部位の一位が腰痛なんです。とは言え、腰が痛くて病院に行っても検査では「異常なし」と言われる方がけっこうな数いらっしゃるんです。
検査をしても、骨折・腫瘍・神経圧迫などの明確な異常が見つからない腰痛のことを医学的には「非特異的腰痛」と言います。
かつては腰痛全体の約85%がこのタイプとされていて、診断可能な椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などは15%程度にとどまるとされてたのですが、近年では、神経ブロック注射による痛みの反応などを用いた診断技術が進化して、原因不明の腰痛に対しては、以前より正確に診断や治療を行うことが可能になってきました。
ただ、過去には、一部の整形外科で、診療報酬の点数稼ぎのために、非特異的腰痛に対して不適切な神経ブロック注射などが広く行われていた時期もありました。
神経ブロック注射の適応に関する精査などが不十分なまま行われていたケースもけっこうあって、結果として効果が得られないだけでなく、症状が悪化するケースもあったよゆうです。
あと、私の知り合いの医師から聞いた話ですが、とある整形外科で、腰痛や足の痛みの背景に糖尿病性神経障害があったにもかかわらず、糖尿病の検査や治療が行われないまま、「医師の診察なし」で、電気治療や温熱治療だけ行われた患者さんが、糖尿病が悪化して、最終的に細菌に感染してしまって足が壊疽になってしまって、足を切断せざるを得なくなったというひどい事例があったようです。
なので、このような不幸な事例を減らすために、医科学的に正しい知識を広めることが、私がやるべきことの一つなんだと考えています。
確かに、整形外科医は、脊椎や関節などの手術のスペシャリストです。でも、原因がよく分からない慢性的な痛みの管理については苦手な先生が多いかもしれません。
この場合、麻酔専門医による「ペインクリニック」の方がより適切な対応ができる場合もあります。なので、整形外科に行っても良くならないという方は、一度ペインクリニックを受診するのも一つの方法です。
さまざまな検査をしても「異常なし」と言われてしまう非特異的腰痛の中でも、特に慢性腰痛は筋肉の減少、姿勢の悪さ、関節の可動域が狭くなることなどが原因で、筋肉や筋膜に慢性的な炎症をおこしていることが、主な病態と考えられるようになってきました。こうした腰痛は、体操や筋トレなどで予防することが可能です。
危険な腰痛
その一方、危険な腰痛としては、膀胱直腸障害があるケース、痛みやしびれが急激に発症して歩けなくなるケースなどが挙げられます。また、泌尿器科疾患である尿管結石や、腎盂腎炎なども腰の痛みをひきおこします。内科疾患が原因の腰痛は、一般的な腰痛とは症状の出方が違うので注意が必要です。
ところで本題に戻りますが、ぎっくり腰は一発でなおるのか?についてお話していきます。
ぎっくり腰は、医学的には「急性腰痛」と呼ばれています。突然腰に強い痛みが走る状態です。重いものを持ち上げた瞬間や、体をひねったときなど、特定の動作がきっかけになることが多いですが、前触れもなく急に痛みが出るケースもあります。この前、私がなった腰痛もこのタイプです。
Youtubeでは「ぎっくり腰が一発で治る!」なんて動画を、よく目にしますよね?あれって本当なの?と思いませんか?
この前、「ぎっくり腰」になったことを知人に話たら「私は鍼治療で一発で治ったよ。先生も鍼に行けば?」と言われたのですが、ちょっと言葉に詰まってしまいました。
実は医師には「鍼灸ってあんまり信用していない」という方も少なくありません。
とは言え、一部のすごい鍼灸師の施術だと、ぎっくり腰が一発で治ることもあります。というのも、2015年頃、日本スポーツ協会公認スポーツドクターの研修会で、台湾の有名な鍼灸師が、その場で痛みを取る施術の実演をしたことがあったのですが、慢性的な痛みを抱えている受講者の方を壇上にあげて、その場で痛みを取る施術を見た時は感心しました。さすがに骨折の痛みはとれませんでしたが、それ以外の痛みについてはその場で消えるというすごい技術です。
特にアスリートは、アンチ・ドーピングの観点からで強い鎮痛薬を使えないことがあるので、薬以外の治療法があるということが大切なんです。
ぎっくり腰の治し方
ぎっくり腰は、ちょっと難しい言葉で言うと「急性筋・筋膜性腰痛」の1つの形と考えられています。筋肉や筋膜に炎症を起こしている状態なので、腰痛の急性期には炎症を抑える作用のある、NSAIDsと呼ばれる、ロキソニンなどの消炎鎮痛薬の内服がもっとも効果的です。また、急性筋・筋膜性腰痛の場合は、アイシングなども効果的です。
ここで、一発でぎっくり腰を改善する方法を紹介したいと思います。
不思議なことにぎっくり腰は、「膝窩筋」という膝の裏にある筋肉を強く揉みほぐすと改善することがあります。この時、悲鳴を上げるくらい、グリグリと強くもみほぐします。
腰痛より押しているところの方が痛いとよく言われます。医学的なエビデンスやメカニズムはよく分かっていないのですが、この部分を揉みほぐすとぎっくり腰の痛みが改善することがあるんです。ただ、自分では手加減してしまうので、もしぎっくり腰になった時は、ご家族や友人の中で、特に仲の悪い人に頼んでグリグリ押してもらいましょう(笑)
私がクリニックを経営していた時は、休日・夜間診療で、ぎっくり腰の方が来ることが多かったのですが、膝窩筋のもみほぐしに加えて、他の部分の筋膜リリースなどの徒手療法や消炎鎮痛薬の内服などを組み合わせることで、ぎっくり腰が改善する方が多かったです。歩けない状態で、タクシーで来院された方も、何とか歩ける状態まで回復することもありました。
次にご紹介するのが「ストレッチボード」です
クリニックでも使っていましたが、「ストレッチボード」という器具があるんですね。
単にその上に乗るだけなんですが、これも不思議とぎっくり腰に効きます。
ストレッチボードの上に乗って体を左右にゆらゆら揺らすと、腰の痛みがやや改善するんです。これも詳しいエビデンスやメカニズムは分かっていませんが、ふくらはぎなどの筋肉の緊張をとることで、痛みを感じている腰背部の異常な筋緊張が改善する可能性があると言えます。ぎっくり腰を繰り返している方は、いざという時のために購入しておくのも良いと思います。
ここでよくある質問に回答します。
Q腰痛の時、冷シップか温シップか迷うのですが、どちらを選べばよいですか?
実は湿布療法というのは、古くから世界各国で行われてきていますが、最近では、エビデンスが少ないので、アメリカなどではほとんど使われていないんです。湿布の処方量を見るとほぼ日本特有の文化と言えます。
最近の湿布にはロキソニンなどの成分(ロキソプロフェン)を配合したテープなどがあって、有効成分を局所で吸収させて局所内での濃度を上げるという考え方の元に湿布が使われていますが、皮膚からの吸収率を考えれば、非効率的ですし、エビデンスも少ないです。
なので、ロキソニンテープなどの湿布を貼るより、普通にロキソニンを内服した方が、血中濃度がすぐに上がるので、痛みの改善には即効性がありますし効果的です。
ちなみにボルタレン座薬などを使うと注射の痛み止めと同じくらいの速度で吸収されるので、鎮痛効果が早く現れます。ただ、急速に効きすぎるので、血圧低下によるふらつきなどの副作用に注意する必要があります。
なので、私自身急性腰痛に対しては、湿布は使わないで内服薬とアイシングなどの物理療法、徒手療法などを組み合わせた治療をしています。
患者さんにも同じ説明をして、原則として湿布は処方していません。ただ、高齢者の方で、どうしてもいつも使っている湿布がほしいという方にかぎって処方しています。
アメリカなど、湿布がほとんど存在しない国でも、やはり消炎鎮痛剤の内服に加えて、局所のアイシングを行うのが一般的です。
たとえ冷湿布を貼ったとしても筋肉などの組織は冷えません。物理的に冷やす方が、組織の温度が下がって過剰な炎症を改善することができるので、理にかなっています。ちなみに回復期にも物理療法は有効で、その場合は温熱療法といって、局所を温めることで血流を良くして痛みの改善をはかることもあります。
湿布は確かに局所の消炎鎮痛剤の濃度を上げると考えられますが、その効果は限定的なので、湿布がよく効くと言っている人は、ほぼプラセボだと思います。
なので、温湿布や冷湿布の使い分けについては、患者さんの好みの問題と言えます。私の場合は、患者さんからリクエストがあった時だけ処方しています。
けっこう前から、高齢者への大量の湿布の処方が問題になって1ヶ月あたりに出せる湿布の枚数が制限されましたし、今後は保険適応から外れる動きになっています。湿布に科学的エビデンスが豊富にあれば、そんなことにはならないと思います。
ちなみに、先程もお話しましたが、局所を「物理的に」温める、あるいは冷やすというのは有効です。この時どちらを選択するのかは、「患者さん自身が気持ち良いと感じる方を実施する」と、良い結果が得られることが多いです。
また湿布は薬剤が直接肌に触れるので、接触性皮膚炎や汗疹などかぶれてしまう方も多いです。そういう意味でも使いにくいです。なので、皮膚が弱い方にはおすすめできませんし、あえて湿布を出す意味はあまりないかと思います。
コルセットやサポーターをする場合の注意点
急性腰痛の時にコルセットやサポーターを使用して支えると腹圧が高まり背骨が安定するので痛みが和らぎますが、長い期間つけっぱなしにしていると、お腹周りの筋肉が弱くなって、より腰痛になりやすい体になってしまいます。
腰痛があるからと言って、ずっとサポーターをしているという方には、できるかぎり外す時間を増やして筋肉を鍛えるようお話しています。
腰痛予防におすすめの体操
ゴロゴロ体操
ゴロゴロ体操は、腰痛予防として股関節周辺の可動域を上げるという趣旨で紹介しています。ゴロゴロ体操は「名医のTHE太鼓判!」でレクチャーさせていただきました。
ハイハイ運動
ハイハイ体操は、体の歪みをとることで、腰痛だけでなく肩こりなども予防する体操です。
腰痛の新常識
最後に、あまり知られていない、一昔前とは異なる「腰痛の新常識」を3つお伝えします。
腰痛は画像所見の重症度と痛みの程度は一致しない
だいぶ昔の整形外科医が患者さんに説明する時、「ここの部分の椎間板ヘルニアがあるから痛みが出ている」という説明が一般的でした。
でも、今では「椎間板ヘルニアがあったとしても、痛みが出るとは限らない」という感じになってきています。
画像所見がひどくても、まったく痛みがない人もいますし、逆に画像で異常がなくても激しい痛みを感じている患者さんもいます。もちろん、画像所見に一致する痛みやしびれがある時は、その部分の治療が必要です。腰痛の約15%は椎間板ヘルニアなどの器質的病変が腰痛につながっているので、膀胱直腸障害などの神経障害が出ている場合などは、手術適応になります。その判断は主治医の先生とよく相談して下さい。
腰痛は心理・社会的要因が、かなり影響する
心理・社会的要因が、腰痛を悪化させる要因になりうるということは、10~15年ほど前から言われています。この説に基づいて、慢性腰痛の中でも心理・社会的要因によって引き起こされている腰痛に対しては、抗うつ薬の一種である「サインバルタ」などが処方されるようになりました。
心理・社会的な因子で腰痛が悪化している場合は、精神療法なども併用して、恐怖心などを克服することも大切なんです。ただ、サインバルタなどの抗うつ薬は、副作用も多いので、可能であれば処方経験が豊富な整形外科の先生や、精神科などで治療を受けることが必要です。
腰痛に安静はよくない
「腰痛になったら安静にしなければならない」と思っている方が少なくないかと思います。もちろん「ぎっくり腰でまったく動けない」という事態もあるので、その時は痛み止めが効くまで安静にしても構いません。
そして、内服薬や物理療法などで痛みが治まってきたら、できるかぎり早い段階で、動ける範囲内でできる限り動かしてあげた方が、腰痛は早く治ると考えられています。
そして、腰痛予防のためには、筋力を強化したり、筋肉の柔軟性を高めたり、関節の可動域を広げることで予防することが大切です。
ただし、先ほどから何度かお話していますが、いわゆる「レッドフラッグサイン」がある腰痛。神経障害があって歩けないなど、重症の時は、無理に動かそうとしないで、必ず医師の診断と治療を受けて、指示に従って下さい。
ということで、今日はぎっくり腰を改善させる方法、腰痛を予防する体操、腰痛治療の考え方などについてお話させて頂きました。
何か分からないことがある方は、気軽にコメントして下さいね。また、無料のお悩み相談のリンクは概要欄に貼ってありますので、そちらから相談して頂いても大丈夫です。
特に心理・社会的要因が大きな影響を与えている腰痛に関しては、精神療法が有効なので、ぜひ無料のお悩み相談を利用していただければうれしいです。
Dr.TAKAでした。
12月13日リリース