こんにちは!Dr.TAKAこと内科医でスポーツドクターの栗原隆です。この記事では、スポーツドクターの立場から、血糖値やHbA1c(ヘモグロビンA1c)の数値を改善するための運動方法についてわかりやすく解説していきます。
運動が続かない理由とその対策:短時間・ちょこちょこ運動のすすめ
「週に4〜5日はジムに行かないといけない」、あるいは 「毎日30分以上の有酸素運動をしないといけない」 といった義務感は、かえって挫折しやすくなる原因となります。
短時間運動の驚くべき効果
ある研究では、食事とは関係なく、短時間で頻繁に運動することが効果的であると示されています。
- 例えば、30分ごとに1分40秒のウォーキングを行うことで、日中ずっと座って過ごした場合と比較して、日中の血糖値が約37%低下するという報告があります。
- Apple Watchの「スタンド」機能のように、定期的に立ち上がり歩き回ることは良い方法です。
- これは血糖値の改善だけでなく、デスクワーク中心の方のメンタル面でのリフレッシュという点でも、非常に良い健康習慣と言えます。
日常生活に運動を組み込む方法
運動が続かない方は、日常生活に「ながら運動」を組み込んでみましょう。
- 歯磨き中にかかとを上げる動作(15回から20回程度)を行う。これは「第2の心臓」と言われるふくらはぎに効きます。
- やかんの湯が沸くまでの間に、軽く膝曲げ運動(スクワット)をする。
- テレビCMの間などに、その場でつま先立ちをキープする。これもふくらはぎに効果があります。
- 家の中で掃除をしたり、ちょこちょこ動き回ったりするだけでも、かなりの歩数を稼げる ことがわかっています。外に出るのが難しい時や暑い時期(熱中症対策のためにも)、家の中でこまめに動くだけでも運動になります。
血糖値安定の鍵:スポーツドクターが語る筋トレ(スクワット)の重要性
筋肉と血糖コントロールの関係
特に「痩せ型なのに血糖値が高い」という方は、元々の筋肉量が少ないため、血糖コントロールが乱れやすい傾向にあります。
筋肉は糖(グリコーゲン)の貯蔵庫となるため、筋肉がしっかりつくと、その分、糖が筋肉に回収され、血糖値が安定します。
まずは「朝の3回スクワット」から
本格的な筋トレに抵抗がある方や、1日10〜20回を3セットなどと言われるとやる気をなくしてしまう方 でも、まずは 朝にスクワットを3回だけ 試してみましょう。たった3回でも、習慣化すれば大きな違いが出ます。
【実践】正しいスクワットのやり方と効果を高めるコツ
準備と安全確保
- 安全なスペースの確保:エクササイズできるスペースを確保します。もしゴミ屋敷に住んでいる場合は、運動前にまず家の片付けをすることが、それ自体かなりの運動になります。
- 初心者のための安定化:運動初心者は、椅子、手すり、または壁 に手や体を添えて、体を安定させて行いましょう。
スクワットの基本動作
- 足の開き方:足を肩幅と同じくらいか、やや広めに開きます。
- つま先と膝の向き:つま先と膝頭の向きを一直線にすることが重要です。向きが合っていないと、膝や足首を痛める原因になります。
- 手の位置(難易度順):
- 慣れていない人:両手を前に突き出してバランスを取る。
- 慣れてきたら:両肩に手を添える。
- さらに楽にできるようになったら:頭の後ろで手を組む。
- 下げる動作:「太ももが床と水平になるくらいまでお尻を落とす」 という感覚で行います。
- 注意点:「しゃがむ」という感覚でやると、膝が前に出すぎて膝に大きな負担をかけてしまうため、できるだけ膝を前に出しすぎないように気をつけます。
運動中の呼吸と連続動作
- 呼吸:呼吸は楽にし、息を止めないようにします。息を止めると血圧が急上昇する危険があるためです。
- 自然な呼吸:お尻を落とす時(下がる時)に息を吸い、立ち上がる時に吐く のが自然な呼吸になります。
- 動作のペース:一連の動作はゆっくり行います。
- 休まない:立ち上がった状態で関節をロックして休むのではなく、すぐに次のお尻を落とす動作に入ります。動作の途中で休みすぎると、運動効果が薄れてしまいます。
運動効果を高める「スロー・トレーニング」
スロートレーニングとは、ゆっくりと動かし、筋肉の緊張を維持して休まずに動作を行う方法です。これにより筋肉への血流が制限され、より運動効果が高まると言われています。
運動が難しい方への代替案とステップアップ:全身筋トレのメリット
スクワットが難しい場合の代替案
- エレベーターやエスカレーターをできる限り使わない。
- 手すりに捕まりながらでも、階段の登り降りを良い運動とする。これだけでも足の筋肉を鍛えられます。
- ただし、動かしている箇所に痛みがある時は、無理にその動作をしないように注意してください。
- 筋トレができなくても、通勤・通学・散歩の際に10分から20分で良いので早足で歩いてみる。これだけでも立派な有酸素運動になります。有酸素運動は日常生活に無理なく溶け込ませることができれば、続けやすく効果的です。
本格的に筋トレを行う場合
自宅でのスクワットが簡単すぎると感じる方や、もっと本格的に筋トレをしたいという方は、全身の筋トレを行った方が、血糖値やHbA1cの値により良い影響が早く現れます。
- 目標:3ヶ月ほどでHbA1cの数値を正常化させることも可能です。
- 全身筋トレ頻度:全身の筋トレを週に2〜3回行うのが良いでしょう。
- ステップアップ:さらに効果を高めたい場合は、上半身と下半身を分けて、週に4日以上筋トレを行うと、行った分だけ効果は高くなります。
- 注意点:同じ筋肉群を連続で鍛えないように注意してください。やりすぎ(オーバー・トレーニング)は逆効果になることがあります。
筋トレのその他のメリットと専門的な指導の必要性
- 筋トレは、血糖値やHbA1cの数値を改善させるだけでなく、他の様々な病気の予防や改善、精神的な安定 にも効果があります。
- 筋トレは一見簡単そうに見え、YouTubeなどにも解説動画が溢れていますが、実はコツを掴むのが難しい 運動です。間違ったやり方をしても効果は出ません。
- 初心者や運動経験のない方は、筋トレ専門のトレーナーなどから正しい方法を学ぶ必要があります。
警告:生活習慣の改善でHbA1cが改善しない場合、そして危険な高血糖への対処法
血糖値が高い原因が「生活習慣病」ではない可能性
以下のようなケースでは、単なる生活習慣の乱れではない、別の病気が隠れている可能性があります。
- 体型は細いのになぜか血糖値だけが高い。
- 家族に糖尿病の人がおらず肥満でもないのに、自分だけ血糖値やHbA1cが高い。
- 食事療法や運動療法をしても、なかなか血糖値やHbA1cが下がらない。
こうした場合は、1型糖尿病 や膵臓の異常、他のホルモン異常 など、別の病気が隠れている可能性があります。生活習慣を改善しても数値が改善しない時は、大きな病院で詳しい検査を受け、原因を確認する必要があります。
- 生活習慣の改善で良くなるのは2型糖尿病です。それ以外の病気(1型糖尿病、癌など)がある場合は、それぞれの病気に合った適切な治療を受けることが最も大切です。
危険な高血糖時の対処法(HbA1c 9〜10%以上)
HbA1cが9〜10%以上といった、命に関わるレベルの高血糖の場合、自己流で血糖値を下げようとせず、必ず専門医に相談してください。
- このレベルでは、まず短期間のインスリン注射や経口血糖降下薬を用いて、血糖値を安全圏まで下げる必要があります。
- 場合によっては入院が必要になることもあります。
- 「薬に頼りたくない」という方もいますが、まずは薬でリスクを減らし、その間に生活習慣を整える という考え方が重要です。
生活習慣の改善によって薬をやめられる方もいます が、一生懸命取り組んでも薬がやめられないケースもあります。その場合は、主治医とよく相談しながら治療方針を継続してください。
Dr.TAKA
12月13日リリース








